東京高等裁判所 昭和28年(う)1297号 判決
被告人 鈴木海一
〔抄 録〕
次に被告人等はAの孫BからAは本件被害者Oに対し金四万円の債権を有するものとしてその取立方を委任されたものであることは所論のとおりであるが、原判決が認定するところによれば、被告人等がこの債権の弁済方を右Oに要求したところ同人から右債務は自己のAに対する債権と相殺したのでAに対する債務は存在しない旨主張されたにも拘らず本件所為に出たものであるというのであるから、被告人等は果して債権の存在するものと確信し且つ真にこれが取立をする意思をもつて本件所為に出たものであるか否かが必ずしも明確ではないのであるが、仮に原審認定のように被告人等に右債権取立の意思があつたものとしても、権利実行の場合は如何なる方法を採つて弁済させても恐喝罪は成立しないものと解するのは相当ではなく、債権実行の方法が社会通念上一般に認容される程度範囲を越えない限り何等違法の問題は生じないけれども、その採つた手段方法が債権実行の手段方法として社会通念上一般の債権者の認容すべきものと認められる程度範囲を越えているときはたとえその取立てた金額は債権の範囲内であつても恐喝罪の成立する場合もあるものと解するのを相当とする(昭和二六年(れ)第二四八二号事件昭和二七年五月二〇日最高裁判所第三小法廷判決参照)ところ被告人等の採つた本件債権実行の手段方法は原判決認定の如くであつて、明らかに社会通念上一般に債務者が当然認容すべきものと認められる程度範囲を越えているものと認められるのであるから、その取り立てた金額は債権の範囲内であつてもその手段方法において違法たるを免れないのである。従つて本件の如き場合には恐喝罪が成立するものと解するのを相当とし、原判決には所論のように法律の解釈適用を誤つた違法のあるものとは認めることはできない。論旨は理由のないものである。